武田知弘『ヒトラーとケインズ』祥伝社新書

$ゆっきーのエッセイブログ


よい公共投資と悪い公共投資がある?

 では、前回ヒトラーの公共政策の簡単な復習をしましたので、今回さらにそれを見ていきます。筆者はここでケインズの重要な概念を持ち出します。

ケインズの失業対策理論には「乗数効果」というものがある。政府が投資をして、雇用(有効需要)を増やせば、雇用された労働者は、そこで得た収入を使う。労働者がお金を使えば、さらにだれかの収入になる。そのようにして、需要が定数的に喚起され、景気が上向くという理論である」

武田知弘『ヒトラーとケインズ』P99

 例えばアウトバーンの工事というものだけでなくても、この効果に限って言えば、ヒトラーが実際にやった「お手伝いさんを雇うと雇った人は所得税が減税される」(本書p111)というのも機能としては乗数効果と同じ働きを期待するものだと言えます。お手伝いさんに雇い主の富の一部が流れて行って、職を得たお手伝いさんは給料日に新しい洋服を買うかもしれないので、その時点でお手伝いさんからも経済的な波及効果がアパレル産業に対して発生するというわけです。

 仕組みとしては分かるのですが、そううまく行くんでしょうか?

例えば、そうするとお手伝いさんを雇う手当を支給するのと大して変わらないと思います。だったら、お手伝いさんに限らず、失業者に失業手当を施せば、公共事業と同じ効果が出るのでしょうか?

 これは、やはり現代経済学会では否定的のようで、大学の経済学部ではケインズの理論の支柱として乗数理論が教えられるけれど大学院ではそれは否定されているようです(><)。ナンナンダ
 

 この本の著者も以下のように言います。

「なぜ、ナチスの公共事業にだけ乗数効果が現れたのか?ケインズの乗数効果理論というのは、それだけでは実は言葉足らずだったのである。というのも、ケインズは公共事業を増やしさえすれば、乗数効果があがるような言い方をしている。しかし、ただ単に公共事業を行うだけでは、乗数効果はそれほど上がらないのである。」

武田知弘『ヒトラーとケインズ』P101

やっぱりね・・・
筆者は続けて以下のように論を引き継ぎます。

ヒトラーの公共事業には独特の工夫があった
「1つは、大企業、高額所得者に増税をし、それを公共事業に当てるということである。そしてもう1つは、公共事業費は労働者に厚く分配するということである。つまりは、大企業、高額所得者の資産を減らし、それを労働者に分配する、そうすることで初めて、乗数効果が生じるのだ」

武田知弘『ヒトラーとケインズ』P101

うーむ。

そうすると、乗数効果が出る公共投資とでない公共投資、つまり社会全体の富を増やすよい公共投資とバラマキ型の悪い公共投資 とがあって、アメリカも日本も(1940年代だけじゃなくて今の自民党や自民党政権も?)公共投資に成功したとは言えないけれど、ヒトラーはそれを見事にやっていたということになるのでしょうか?

やっていたのなら(やれていたのなら)、それはこの計画経済の探求の論考でも大いに検討すべきでしょう。

もうちょっと仔細に検討する必要がありそうです。

つづく