江上剛『我、弁明せず』PHP文芸文庫
金子直吉という男
『我、弁明せず』 第一章「昭和金融恐慌」は、ある商人の登場から始まります。
「銀縁の丸眼鏡の奥から、直吉の大きな瞳が池田成彬をにらんでいる。いかにも如才ない様子で、瞳に表情があるかのようによく動く」
成田成彬は当時三井銀行の筆頭常務で金子直吉の経営する鈴木商店に多額の融資をしていました。するとこれはお得意先が常務室で雑談でもしているのでしょうか・・・。
「暑いですか」
成彬は訊いた。
「いやあ、そんなわけではないですが、切羽詰まると汗も出ますわな」
どうやら、融資の相談のようで、しかもかなりやばそうな状態で融資の相談に来ている様子です。
鈴木商店は、一時この池田成彬が属する三井財閥全体の売上を凌ぐ規模の企業グループを形成し、当時のアメリカのフォーブス誌の世界長者番付で男性部門の第一位がロックフェラーで、女性部門のトップが直吉の主の鈴木商店のオーナーお家さんです。
この企業グループ自体が殆ど現代では知られていませんが、高校の時の日本史の教科書で米騒動と一緒に出てくる焼き討ちされた鈴木商店というのが、この財閥をも凌ぐ一大コンツェルンのことです。
あたしは、高校の時教室ではてっきり、多少小金を貯めてる小さなお米屋さんがたまたま襲撃されちゃってかわいそうだなあ・・・とか(爆)素朴に思ってましたけど、まあ、なんといいますか、三井グループの団琢磨が暗殺されたと同じような文脈で狙われる存在だったのです。
その一大コンツェルンでいまでも残っている会社は例えばこういう有名な会社。
神戸製鋼所、帝人、昭和シェル石油、双日、日本海運、三井住友海上火災保険、プルデンシャル ジブラルタ ファイナンシャル生命保険。
すごいですね。
ちなみに、ゆっきーの小説の方のブログでこのあたりのネタを使ってますので(^^)よかったらぜひ足を伸ばしてください『文学していたゆっきー』(クリックしてね!)
では次回、この三井銀行の最高経営責任者が新興企業グループの鈴木商店大番頭金子直吉に引導を渡すシーンの紹介と、その背景について書いてみたいと思います!