岩井克人『会社はこれからどうなるのか』平凡社ライブラリー

$ゆっきーのエッセイブログ

そもそもなぜ法人は生まれてきたの?

 というわけで、とってもややこしい人造人間社会が、どうやらたまたまではなくて、必然的な理由で生まれてきたらしい、という予感がして参りました。


 素朴な疑問としては、そういうめんどいことをやめにして、結局会社だって大事なのは人(ヒトじゃなく)なんだからそれでいいじゃん。

 その通りなのです!




 でも、それだとまずいことが確かに経済活動をやっていると出て来まして、さらにまずいことに、そのまずいことは頻繁に起きるとすれば経済活動の根本をあっという間に壊してしまう性質を持っています。


 例えば、大好きなラーメンやさんに入った時に、いつものスーパー特製ミラクルラーメンを注文しようとしたところ、あたしの大好きな豚骨スープがベースで角煮と明太子がふんだんに入っているあの店の看板ラーメンがメニューから消えていたとします。

 驚いたあたしは、こわごわと「あの〜。スーパー特製ミラクルラーメンは・・・」と聞くことでしょう。

 いつものあの髭面のぶっきらぼうだけど、時々ニヤっとして明太子を増量してくれた店長ではなく、キャバクラの黒服のような、およそラーメン屋に似つかわしくない細身の男性がちらっとこちらを一瞥してきっとあたしにめんどくさそうにこう言うことでしょう。

「先週から経営者替わったから」


ががーーーん!(ーー;

 気の弱いあたしは「それならそうと看板に書いておけーー」とテーブルを威圧的に拳で叩き・・・


 ほほほ・・・

 これはまあ、諦めるしかないわけですが、もしこれがラーメン屋と取引している業者の社長ゆっきーが、半年契約で2割引で出血大サービスで特製ちじれ麺を納品していたのに、やっと損益分岐点がプラスに転換する今月の終わりに、「経営者が変わったからその麺はもう仕入れません」と言われたら、これは出るところに出ようか・・・という話になりますよね。


 と、ラーメン屋の話はここまでにして岩井先生に語ってもらうとします。

「たとえば、いま10人の人間が共同出資をして、共同企業を営んでいるとしましょう。さらに、この共同企業は仕入先や顧客や家主や金融機関などと、100個の契約を結んでいるとしましょう。その場合、10人の共同経営者のうちひとりでも反対したり脱落したりすると、それまでの契約が無効になってしまいますから、契約書を書き直す費用はおおよそのところ10X100=1000に比例するはずです」
岩井克人『会社はこれからどうなるのか』P90


 それこそががーーーん!で、もしあのホストクラブ系の兄ちゃんが共同経営者だったとするならば、あたしはそういうややこしい経営形態をとっている会社と契約書を安易に結んでしまったので、もしかすると出るところに出てもコロッと負けてしまうのかもしれません。


 しかし、このとき、この10人が株式を出資して法人というヒトをこしらえた場合には、ラーメン業者ゆっきーはその人造人間のヒトと独立にひとつ契約をすればいいわけですから、どのような内紛があろうとも、損益分岐点を超えてやっと利益が出始めた細ちじれ麺の納品をこれまで通り続けて利益を出していくことができるはずです。


 かように、契約主体としては人造人間と契約した方が、というより、人造人間と取引しないと経済活動は円滑どころかまともに遂行できないということになりそうです。


つづく・・・