【ライフハック本の特徴】2シリコンバレー精神親和性その9 記憶産業の他の一面

 前回SF的な知性から導き出される「世界脳」のユートピア的世界について書きました。今日はウェルズさんの理想を引き継ぐことの難しさについて書いてみたいと思います。

記憶のゆくたて―デジタル・アーカイヴの文化経済/東京大学出版会
 実際に(デジタル•アーカイブの:ゆっきー補注)作業がはじまるとすれば、一部の個人的なものや小規模なものを除き、デジタル•アーカイブは予算を執行し人材、機材を使用して作成される。規模が大きければ企画構想から完成、公開まで数年、もしくは十年以上を要する事業である。これは長期にわたる雇用と利益が生じることを意味する。産業という側面でとらえれば、デジタル•アーカイブの構築は記憶産業(情報格納産業)と文化産業という分野に分類される
『記憶のゆくたて』より


 これは、言ってみれば「記憶産業の公共事業論」と言えるでしょう。政府が<望ましい>道路や新幹線の国土計画を練ったあと、予算を割り当て数年位から数十年かけてゼネコンに発注し国土が整備されていく。当然建設関連事業には産業連関表的に波及効果が出て、ゼネコンだけでなく業界全体が雇用と利益を生む産業構造を形成します。


 著者の武邑光裕さんがこの公共事業モデルを「記憶産業」の将来像を素描するにあたって暗黙の前提としているのは、引用した部分の用語、ロジックから明らかです。

$『音の風景』 ANNEX


 例えば国連ですと、ユネスコの【世界の記憶】プロジェクトがこのモデルとなりそうです。

【世界の記憶】ユネスコ・世界記憶遺産の一覧 - NAVER まとめ





 しかしこの記憶産業を公共事業論のアナロジーで考えるモデルは少なからず牧歌的だと私は思います。

 先ほど赤で強調した<望ましい>という部分ですが、国にとって何を記録するのが望ましいかの国土計画に相当する計画が公共事業モデルには必要になります。つまり、望ましい記録と記憶なわけですから、ややもするとこの「記憶産業論」は「国にとっての望ましい歴史」という突然きな臭い話になっちゃうわけです。

 過去の歴史記憶を国が制定することの危うさは散々議論されていますので、ここではそれ以外の、「現在の記録」を国が主導してアーカイブしていくことの危険性をさっと見てみます。




 例えばこんな書籍が扱っている主題ですね。

デジタル社会のプライバシー―共通番号制・ライフログ・電子マネー/航思社
あなたの個人情報、大丈夫?
スマートフォンのアプリ、インターネットでの買い物、スイカやおサイフケータイなどの電子マネー、街頭監視カメラ---- 便利さとひきかえに、私たちの日々の生活がデジタルデータとして記録・収集され(「ライフログ」)、無断で利用されています。

さらに、原発・震災報道のかげで、社会保障・税の共通番号制(「マイナンバー」)が2012年の通常国会で法案提出、15年に導入されようとしています。 この共通番号制、実は、名目にしている「税の公平性」にも「社会保障の充実」にも決してつながらないことを政府・マスメディアはひた隠しにしています。

こうした個人情報は、11年秋以後、ソニーや三菱重工など超一流大手企業だけでなく、衆議院・参議院まで、サイバーテロによって世界中に流出するという事態が起きています。 デジタルデータは一度流出すれば回収不可能です。そんな国や企業のなすがまま、私たちの個人情報を記録・収集・管理させていいのでしょうか?

本書はひとりひとりが、共通番号制の是非、デジタルデータの利用のしかた/されかたを考え、プライバシーと民主主義を取り戻して、デジタル社会を生き抜くための手がかりとなります。


プロファイリング・ビジネス~米国「諜報産業」の最強戦略/日経BP社
米国で勃興するプロファイリング・ビジネス(個人情報の分析・販売)の実態をはじめてレポートした衝撃のノンフィクション。チョイスポイント、アクシオム、レクシスネクシス、セイシントなど、国防総省やFBIなどの政府機関をクライアントに急成長を遂げるプロファイリング企業のケーススタディを通じて、「監視社会」への道を突き進む米国情報社会の実相をドライなタッチで描く。CNNテレビ、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストなど著名メディアが相次いで絶賛した全米ベストセラー。市民が隠れる場所はもうどこにもない!(No Place To Hide)。

個人情報のプロファイリング・ビジネスを軸に、巨大企業へと成長した各社の強かな戦略を通じて、監視社会への道を突き進む米国情報社会の実相を描いた全米ベストセラー。




 次回、いったんこうしたシビアな側面について迂回しつつ整理し、再びウェルズさんの理想実現の道に戻りたいと思います。
(o^—^)ノ